浦永雑記

つれづれなるまま綴る雑記

インド料理屋の白と紫

神戸に用事で出かけたついでに、初めて行くインド料理屋で昼ごはんを食べた。

客席が10席もない小さな店だったけれど、壁面には店の人たちが手掛けたらしい装飾が彩りを添えていて、ささやかな生花まで活けられていた。



よく見ると、白と紫の菊。



これは…これは…

仏花だ…。

たぶん、それは、
明らかに、
そのへんのスーパーで売られていただろう、
仏花だった。


お店の人たちは、仏花と知らずに飾っているのか。
それとも、仏花だと知っていながら、敢えて飾っているのか。気になりつつ、もう少し考えてみた。

日本では白と紫の菊が仏花として扱われている。
でもそれは日本人が勝手にそう扱っているだけで、インド人からすると「花は花だしきれいなものを飾って何がおかしいの?」と思うところなのかもしれない。

例えば、日本の喪服が黒いのに対してインドの喪服は白である。それと同じように、死に対するイメージも花に対するイメージも、文化の数だけ存在するだろう。

…じゃあ、インドにも死を思わせる花、不吉な花ってあるんだろうか。
気になる…。


そんなことを思いながらカレーを食べていたら、シャイな感じの店員が、手のひらに乗るような小さなガラスのグラスを持ってやってきた。


「甘いやつです」

これ以上ないほどの、簡潔な説明を添えて。



グラスを覗くと、中には白いココナッツミルク?のようなもの。
そこにうっすら、ピンク色がマーブル状に混じっている。
その上に、何と、乾燥した薔薇の花びらが何枚か浮かべられていた。



こんな小さなインド料理屋で、こんなロマンチックなスイーツ(「甘いやつ」)が出てくるなんて誰が想像するだろう…。

カレーを食べている最中もそんなことばかり考えて、満を持して食後に口に運んだら、
薔薇の香りがふわりと鼻腔を舞った。

ピンクの模様は、どうやら薔薇のシロップらしか
った。


こ、こんなシロップあるの!?インドに!!?
インド、めっちゃすてきやん…。
という、更なる驚き。


そういえばこの間、在日インド人のお宅を訪問したとき、そこの奥様がローズドリンクを振る舞ってくださった。彼女いわく「市販のシロップを水で割って冷蔵庫に常備している」とのことだったけど、それと同じものかもしれない。


何にせよ。
花のシロップが身近な国って、すてきだ。

そんな文化を持つインドの人々からしたら、菊も薔薇も花という点では等しく身近な存在なのかもしれない。そういえば、彼らが花輪によくするマリーゴールドは菊の仲間だ。


改めて白と紫の菊を見た。
スーパーでインド人の手に取られたときは、彼らも「!!??」となったのではないか。ましてや、レストランに飾られるなんて想像もしなかったはずだ。

しかし彼らは、今や堂々とそこに活けられていた。
白と紫が、艶やかに鮮やかに、花としての矜持を主張していた。